みつむらのブログ。

みつむらです。

みつむらによる就活まとめ。

 就活をやっていて、こうすると良いんじゃないかなと感じたことを簡単にまとめてみました。

 ちなみに個人的な状況としては、内々定1社、次が最終選考1社、ESが7社くらい通っていて2社お祈りっていう状況です。

 

1. 自分の就活の軸を決めておく。

 これは就活において関わった色んな人から言われまくりました。

 要するに就活をする上で何を軸というか基準にするかということです。

 軸を何にするかは大企業とか給料とか勤務地とか福利厚生とか何でも良いけど、やりたい仕事・業界の方がバックグラウンドもはっきりしている場合が多くて書きやすいと思います。

 自分は第三志望業界くらいまで考えてるけど、人によってはほぼ同じ業界しか受けていない人もいてそれはそれで正解だと思います。

 大企業とか給料が軸だと志望動機が嘘っぽくなっちゃってきつい気がします。

 (ガチで才能ある人じゃないと厳しいのでは。)

 個人的には自分で書きやすい志望動機が書けていることと、そこまで大企業を受けていないことも相まってES等はほぼほぼ通っているという状況です。

 そして内定が決まってきたら更なる軸が必要になるかなと考えています。

 やっぱり世の中にはたくさんの企業があるわけで、その中である程度自分で軸を決めないと企業選びに苦労すると思います。

 

2. 自己分析、自己PRのネタはちゃんと考えておく。

 自己分析は自分で考えてやりました。

 読んだ参考書をもとにして小学校くらいから自分のやってきたことを遡りました。

 (ちなみにネットにある自己分析もやったけどあまり参考にしていないです。まあ自分でやった自己分析と組み合わせるくらいはしても良かったかもしれませんが。)

 そこから自分の軸を見出しました。

 そしてそれを会社でどう活かせるかを伝えるのが自己PRになります。

 後はそこで出てきたエピソード5個くらいを自己PRや頑張ったことのネタに使っています。

 これによって各項目で統一感のあるESが書けている(と勝手に思っています)。

 自己分析に関してはたまたま読んだ参考書がもとになってる部分が大きいです。

 いずれにせよ自分がどういう人間なのかわかっていないと正しい自己PRもできないし、仮に内定しても入社後ミスマッチが起こる可能性も考えられます。

 

3. マイナビリクナビが全てではない

 他にも就活をサポートしてくれる人材会社は色々あります。

 マイナビなどからもエントリーはしつつ他のルートから攻めるのも有りだと思っています。←何なら人材会社の人にそうすると良いと言われました。

 リクルーターもついて就活のプロにサポートしてもらえます。

 また、自分に合う企業を紹介してもらえる場合もあります。

 ちなみに今内々定+最終選考に進んでいるのもその人材会社のルートです。

 まあ就活も正攻法だけじゃなくて、騙されたと思って色んな方法を試してみても良いと思います。

 普通の就活を上手くやれる自信が無いなら尚更です。

 

 他にもWebテストとか面接とかについては今始まったようなところなので今後ぼちぼち書いていこうかなと思っています。

 

 最後に

 やはり売り手市場なので内定自体は取りやすいのかなと感じています。

 (自分以外にも既に内定貰ってる知り合いちらほらいます。)

 まあ就活に正解は無いと言いつつも必要以上に自分と合ったやり方からズレると内定取れなくて危うい、という話なんでしょう。

 後、自分はたまたま内定を一つ貰ったけど、まだ就活は続けるつもりですし、大事なのは早く内定が決まることじゃなくて自分に合う企業が見つけられるかだと思います。

 だからもしこの文章を読んでくれた自分と同じ就活生、あるいは来年以降就活を控えている人がいたら、周りが周りに内定決まってる人が出てきても焦らずに自分のペースで就活を続けて欲しいです。

幻影

 彼女から電話があったのは、夜の二十三時だった。

 

 俺と彼女はごく自然と知り合い、ごく自然と仲良くなった。彼女は俺にとても優しく接してくれたし、俺は彼女に対し、少なからぬ好意を抱いていた。そして彼女も自分と同じ思いなんだと俺は思っていた。何度か二人きりでデートもした。

 でも、ここだ、と思って俺が彼女に自分の思いを伝えた時、彼女はその気持ちに答えてはくれなかった。他に好きな人がいるのだと、彼女は言った。

「ごめんね。私がいろいろ誤解させちゃったんだと思う」

 彼女は謝ったが、俺にはなぜ彼女が謝る必要があるのか理解できなかった。俺が思い違いをしていただけじゃないかと思っていた。

 

 それ以来、彼女一緒に行動するようなことはなくなったけれど、どこかですれ違えば挨拶ぐらいは交わしたし、時間があれば立ち話だってした。あんなことがあった割には良好な関係が維持できてる、自分の気持ちも切り替えられている、とは自負していた。

 

 そんな矢先、やけに蒸し暑かったある日の夜に、電話が鳴ったのである。

 

「こんな夜遅くにごめん。迷ったんだけど、あなたには伝えておかないといけないと思ったの」

 彼女ははっきりと、でもどこか寂しげに話した。

「どうしたの?」

 僕はなるべく優しい口調になるように言う。

 彼女は一呼吸おいてから、言った。

「私、この街を出ていくことにしたの」

 俺は彼女の言ったことをどう処理すればいいのか、すぐにはわからなかった。

「そうなんだ」

 少し間をおいてから、俺は言った。それからしばらく、沈黙が続いた。お互いに何を次に何を言うべきか、すぐには思いつかなかったのだろう。

「どうしてそうすることにしたの?」

 俺が最終的に思いついたことは、そんなありきたりな質問だった。

「うん。ちょっと探さなくちゃいけないものができたの。別に、自分探しの旅をするとか、そういうわけじゃないんだよ。あっ、でも、ある意味そんなものかもしれないけどね」

「でも、その探すものが何かは、言えないんだ」

「うん。そうだね・・・」

 彼女はやはり、何だか申し訳なさそうに話す。

「それと、何でわざわざ俺に連絡くれたの?」

 俺たちは恋愛関係どころか、今や親友という間柄なわけでもないのだ。そんな自分に何故こんなことを伝えてきたのか、不思議だった。

「私ね、気づいたの。あの時、私が思っている以上にあなたのこと傷つけてたことに」

「そんななことないよ。あの時は確かに残念ではあったけど、君が素直に答えてくれたから、嬉しかったよ」

「そんなことなくない」

 彼女はまたはっきりと言った。

「あの時、あなたなら、ちゃんと断れば許してくれるなんて考えてたの。自分のことしか考えてなかった。色んなきっかけがあって、色んなことを思い知らされたの。何があったかは、話すと長くなっちゃうから、ちょっと言えないんだけど」

「大丈夫だよ。無理して話す必要はないから」

 僕は、彼女が話すことに、真摯に耳を傾けようと努めた。

「うん。でも今は、とにかくあなたに謝りたいと思ったの。ここを離れる前に。私は間違ってた。ごめんなさい」

「そんなにことを大げさにしなくたっていいんだよ。君は今も昔も間違ってなんかいない。それに、あの時だって君はちゃんと謝ってくれてた」

 僕は微笑みながら答えた。はっきり言って、彼女が何故そこまで罪悪感を抱えているのかよくわからなかった。ただ、彼女にも思うところが多々あったのだろう。彼女がそうすることで満足するなら、俺はそれで別に構わなかった。

「そうだったっけ?でもそう言ってくれるととても助かる」

 彼女はやっと安堵したようだった。

「どこまでも行けるところまで行けばいいさ。俺はいつまでもここで待ってるからさ」

 ちょっと気障なことを言ってみる。

「うん。ありがとう」

 彼女は素直に返す。

 またしばらく沈黙が続く。今度は彼女の方が先に口を開いた。

「最後にもう一つ言わなきゃいけないことがあるの。といっても上手く伝えられる自身はあんまりないけど」

「何?」

 彼女は一つ深呼吸をしてから、意を決して言った。

「私の幻影を追いかけるようなことだけはしないでほしいの」

 俺は彼女が言ったことに関して考えを巡らせてみる。

「私の言ったことわかったかな」

「わかったような気もするし、そうじゃない気もする」

 彼女が、ふう、と息をするのが聞こえてきた。

「今はわからなくてもいいの。とにかく私がそんなこと言ってたって、覚えててくれるだけでいいから。はっきり言えば、私がそういう人間だったの」

「君が何かの幻影を追いかけていたっていうこと?」

「そう。だからあなたにはそうなって欲しくなかったの」

 俺は彼女の語ってきたことについてずっと考えていた。

「私が言いたかったのは、これだけ。夜遅くに、急な連絡になっちゃってごめんね。私、もう明日には行かなきゃいけないの」

「大丈夫。構わないよ」

「うん。じゃあね」

「じゃあ、またいつか」

 電話が、ぷつん、と切れた。

 

 俺はベッドに横になってからも、ずっと彼女のことを考えていた。

 彼女の探すもの、そして抱いていた幻想は、彼女の好きな人に関することだったのだろうか。彼女にそこを聞いてみるべきだったかもしれないと、少し後悔する。しかし、そこはもうわからないことなのだ。

 彼女の幻影を抱く、ということがどういうことなのかもよくわからなかった。ただ、彼女のいうことは信じようと、強く心に決めた。

 そんなことを考えているうちに、俺は眠りついた。

2017年12月23日の思い出と禁断の多数決

  2017年の内で12月23日が精神的に一番良い日だったんじゃないかと思う。ちょうど大学でのあれこれとかが片付いた後に、自分の好きな人たちのライブを見れたタイミングだったから。

 僕はこの日横浜にいた。SCUM PARK 2017というライブイベントを見に来た。お目当ては禁断の多数決だったけれど、禁断の出番が終わった後も会場には最後まで残っているつもりだった。

 

 この日は色んな意味でやる気満々だった。会場して早速禁断の多数決の限定CDと撮れる女子メンバー全員分のチェキ券を購入した。その後ロッカーに荷物を詰めてライブエリアに向かおうとしたら、ロッカー付近でもうブラジルさんとほげちゃんのチェキが始まっていたので撮れるメンバーから順番に撮ってもらうことにした。

 ブラジルさんとは初めて紅ラーメンのことを直接話すことができた。

 ほげちゃんとはなんだかもう知り合いみたいな感じで普通に世間話していた。

 加奈子さんとは割と直前にツイッターでリプ返しをしてたのでその時の内容を話したりした。

 Hoiさんは禁断への加入が発表された直後にやっていたツイキャスにお邪魔したりしてたのでそのことを話した。流石に覚えててはくれてなかったけど。

 ボブリシャスさんは自分が名乗ったときにこのブログを読んでくれてることを話してくれて嬉しかった。

 モニ子さんとは具体的に何かを話したという感じではなかったけど対応がスマートで改めて感心してしまった。

 というわけでいつかやろうと思っていたチェキ撮れるメンバーと全員撮るという目標を無事達成できた。

 

 その後ライブエリアに移動した。時間的にはGANG PARADEが始まるちょっと前くらいだった。

 GANG PARADEの時は最初の内ちょっと様子をみるくらいのつもりだったが、段々盛り上がりたくなってきて最終的にどんどん前へ出てきて盛り上がってた。この時点で自分の中である種のスイッチみたいなのが入ってたと思う。

 DJを挟んで次が禁断の多数決の出番だった。今回、というか過去二回もそうだったのだけど、メンバーをじっくり見るというよりもライブそのものを楽しみたいという趣向の人間なのでとにかく盛り上がり倒すつもりだった。2曲目がいきなり透明感だったので周りのファンの人もそれでかなり盛り上がって、自分も負けじと、いや一番盛り上がってやるくらいのつもりではしゃいでいた。

 MCはいつもほげちゃんがメインだったイメージだけど、この日はモニ子さんの脱退が先にアナウンスされてたこともあってモニ子さんが一番話していた。脱退はするものの禁断のことが好きだということが十分に伝わってくるMCだったと思う。

 ちなみに、実質メインMCのほげちゃんも辞めてしまったので今後禁断の中で誰がMCをやるのか気になるところである。

 禁断のライブはこれまで数えるほどしかやってないとは思えないくらい周りも自分もはしゃいでたし、楽しかった。

 禁断が終わった後、力尽きたというよりも寧ろギアがまた一段上がってしまったような感じになって、その後のミュージシャンたちのライブも楽しみ尽くした。

 DJの時に休憩したくらいで、戸川純 with VampilliaLimited Express (has gone?)、そして最後のHave a Nice Day!まで、曲なんてほとんどわからないも同然だったけれどファンの人達に紛れ込んで動き回っていた。

 久々にモッシュとかも体験できて本当に気持ち良いライブだった。

 改めてライブって好きだなと実感した一日だった。

 

 最後にこのライブに参加するきっかけになった禁断の多数決について。

 改めて面白いグループだなと思う。メンバーそれぞれ魅力的で、それでいてファンとの距離が近い。

 モニ子さんとほげちゃんの脱退に関してもいちファンとしては納得しているし、そもそもメンバーが流動的なのも禁断の魅力の一つだと思う。

 なんだか前にもこういうこと書いたような気がするけど、改めてそうだなと思った話。

 今までの自分の概念になかったグループだから、出会えて本当に嬉しい。

 禁断の多数決にも、辞めてしまったメンバーにも、色々ひと段落ついたらまた会いに行こうと思う。

Merry Christmas Mr.Devil 3

天使と悪魔3

 

「おい。なんてことすんだよ。てか埼玉ってなんだよ」

「別にいいじゃない。面白いんだから。」

 天使と悪魔はスクランブル交差点を渋谷駅方面に渡り、最初に集合したハチ公前の広場に戻ってきた時に生中継の該当インタビューに捕まったのだった。突然のことに戸惑う悪魔と、機転を利かせた応対をした天使。インタビューから解放された後、二人は例によって言い合いになったが、どこか楽しそうでもあった。周囲の人々から見たらお互い文句を言いながらも仲の良いカップルに映っただろう。

 それで二人、いや天使と悪魔がそのままハチ公像の近くに移動していた時、悪魔が何かに気づいた。大勢の人がごった返している中、一部の場所に人のいない空間ができていたのである。さらに良く見ると、そこには老人が座っていた。如何にもみすぼらしい服装で、都会でよく見かける浮浪者の一人だった。人々は彼を避けていたのだ。

 老人に気づいた悪魔は立ち止まった。

「どうしたの?」

 老人どころか空間にも気づいていなかった天使は尋ねた。しかし悪魔は答えない。天使は悪魔の目線の先を追って空間と老人の姿に気づいた。そして天使が、あの老人がどうかしたの? と聞こうとした時だった。

「あの老人…」

 悪魔は言った。

「俺が不幸にした奴そっくりだ…」

 悪魔は天使のことを置き去りにして、悪魔は老人の早足で歩き出した。ちょっと!、という天使の声も届くことなく、人混みを掻き分けて進んでいった。

 悪魔は老人の前に辿り着き、仁王立ちでポケットに手を突っ込み、上から見下ろすように老人と対峙した。

「じいさん、どうしてそんなところにいるんだよ」

 悪魔は怖そうな、でもどこか寂しそうな顔で老人を見つめていた。天使が追いついてきて悪魔に声をかけようとしたが、悪魔の顔を見てそれを止めた。

 老人が顔を上げた。

「若いの…わしに話かけとるのか…すまんのお…邪魔だったかい…」

「ちげえよ。邪魔とかじゃなくて。何でこんな寒い日にこんな場所に一人でいるんだよ、体に悪いだろ」

 老人は悪魔に向けていた顔を再び地面を戻した。

「わしのこと心配してくれいたのか…有り難いのう…だがすまないねえ…月並みな言い回しじゃが…わしはもうそんなに長くないんじゃ…年を越せるかもわからん…」

「そんなこと言うなよ。やっぱりこんな寒いところにいつまでもいちゃダメだ。もっと暖かい場所にいなきゃ」

 悪魔は訴える。

「もういいんじゃ…妻も失った…金も失った…住む場所も失った…わしも…昔は浮浪者を見て…絶対こうなるまいと思っていたんじゃがなあ…いつの間にかこうなってしもうた…」

 すると、いきなり悪魔は両手で老人の両肩を掴んで、二人、いや悪魔と年老いた人間はめを合わせた。悪魔は今にも泣き出しそうだった。

「そんなのまだわかんねえだろ!まだやりなおせるだろ…」

 悪魔はそのまま崩れ落ちてわんわん泣き始めてしまった。老人も、悪魔の後ろにいた天使も呆然としていた。

 やがて老人は悪魔に微笑みかけるようにしていった。

「わしの人生はろくなもんじゃなかったのかもしれん…じゃがな…ここは妻と良く来た場所だったんじゃ…すっかり忘れておった…何故か覚え出せたわい…わしはそれだけでも嬉しい…」

 老人は優しい声で続けた。

「そして…最後にこんなにも優しい若者に出会えて…わしは幸せ者じゃ…」

 それを聞いた悪魔はもっと感情的になってもっと酷く泣き出してしまった。最初は呆気にとられていた天使も段々冷静さを取り戻して、早くこの悪魔をどうにかせねばという気持ちになった。

「ほら、いつまで泣いてるの! みっともない! もう立って!」

 天使は悪魔を無理矢理引っ張りあげて起こした。

「おじいちゃん、ごめんね。邪魔しちゃって」

 天使は老人に微笑みかけた。老人も天使に微笑み返した。天使はその老人の笑みを見た時、ふとある考えが芽生えた。

 

 天使と悪魔は人気のない場所に移動した。天使は悪魔が落ち着いてくるのを待った。悪魔は暫く泣き止まなかったが、少しずつ冷静さを取り戻しつつあるようだった。天使はもういいだろうと思ったところで、話し始めた。

「あのね、聞いてくれる?私あの老人を見て気づいたんだけどね。人に不幸が与えられるのは、それを乗り越えて成長してもらうためなんじゃないかなって思ったの。そして幸福はそこからさらに一歩前に進むためにあるんじゃないかなって」

 天使は悪魔と目と目を合わせて、話を続けた。

「だからね、あなたの考え方は独りよがりなのよ。ちゃんと意味があって人間は不幸になるの。それを克服して強くなるために」

 悪魔はもう泣き止んでいた。天使は少し間をおいて言った。

「あのおじいさんは人生の最後の最後で、全ての不幸を乗り越えて幸せな気持ちになれたの。自分一人の力じゃなかったかもしれないけど。でもこれがきっと人間のあるべき姿なのよ」

 今度は天使が感極まって泣きそうになっていた。

「少しは見習ったらどう?…」

 天使は俯いた。悪魔は天使のことを見つめながら言った。

「俺が間違ってたよ。どこまでやれるかわかんないけど、俺なりにやってみるよ。ありがとうな。てかお前まで泣くなよ」

 悪魔は笑った。随分久方振りくらいに笑った気がした。天使もそれを聞いて顔を上げ、優しく微笑んだ。

 

 生中継3

 

 いやー、流石クリスマスですね。素敵なカップルがたくさん集まってましたー。

 私のお気に入りはですね…やっぱり埼玉から来たあのカップルですかねー。あっ、そうです。彼が物凄く照れてるカップルの。まだその辺にいないかなあ。

 あら、そろそろお時間のようですー。お疲れ様でしたー。スタジオい返しまーす。

 

 天使と悪魔4

 

悪魔くんが元気になってくれて良かったよ。嬉しい」

 天使は別れの別れの挨拶をする前にそう言った。

「いろいろ世話になったな。改めて礼を言うよ。これからはちゃんと持ちこたえろよーって想いながら人間どもを不幸にしてやる」

 悪魔も答えた。

「はは、意味わかんない。でもその意気だわ」

 最後にこれだけ言わせてもらっていい?と天使は言い、悪魔は了承した。

「人間に会って幸せだって言わせちゃ悪魔、最低で最高だったよ」

 じゃあね、じゃあな、と言い会って天使と悪魔は別れた。天使が渋谷駅の改札を抜けて人混みに消えて行くまで、悪魔は見守っていた。そして悪魔は再び外に出た。

 悪魔は空を見上げる。街の明かりのせいではっきりとは捉えられなかったが、星がいくつか見えた気がした。

Merry Christmas Mr.Devil 2

 悪魔と天使 2

 

 悪魔と天使は空いている店を探したが、やはり中々見つけることができなかった。どのお店も、カップルや、聖夜を楽しまんばかりの人々で埋め尽くされていた。30分ほど歩きまわり、とあるカフェでようやく二人分の席を確保することができた。

 悪魔はコーヒーとモンブランを、天使は紅茶とミルクレープを注文した。

 席に着いてから天使は、くたびれたという顔をして、ため息をつく。

「はあ、疲れた。全く、どうしてこういう日におしゃれなお店とか予約しておかないんだか」

「だからあ、今日がこんな厄介な日だって知らなかったんだよ。それに、悪魔がどうやって現世のお店なんか予約できんだよ」

「あなた悪魔なんでしょ。適当な人間に乗り移るなりなんなりして、色々やり様があるじゃない。少しそういうことも考えてみたらどう?」

「そんな面倒なこといちいちやってられっかよ。それに、そんなこっちのわがままのために憑りつかれる人間さんが可哀想だろ。お前の方がよっぽど悪魔見てえだ」

「でも、人を不幸にするのが、悪魔の役目でしょ。そのあなたが人間の心配をしてどうすんのよ」

「そりゃあ、そうだけどさ・・・」悪魔がどもる。

 天使は、ははーん、と思う。自分が呼び出された理由が、なんとなくわかった。

 悪魔は開き直って、

「もうキリがねえよ。ほら、折角だし、とりあえず、お祝いしようぜ。メリークリスマス」

「悪魔のメリークリスマス」

「なんだよ」

「何だか、縁起でもないと思って」

「ひでえこというなあ」と悪魔は嫌そうな顔をするが、ちょっと考えて、

「でも確かに、不吉な物語のタイトルみてえだな。『悪魔のメリークリスマス』」と言う。

 天使も何かを考えている。ふと、思いついたようで、言う。

「『Merry Christmas Mr.Devil』」

「なんだ、そりゃ」

「『戦場のメリークリスマス』って知ってる?」

「知らねえなあ」

「でしょうね。あなた、やっぱり現世のことは疎そうだもの」

「知らねえことがそんなに悪いことかよ」

「別にあなたのこと馬鹿にしてはいないわよ。

 とにかく、『戦場のメリークリスマス』っていうのは、ある映画の日本でのタイトルなの。同じ名前のテーマ曲も、かなり有名よ。そして、この映画の欧米とかでのタイトルが、『Merry Christmas Mr.Lawrence』なの。そっから連想してみたってわけ」

「なるほど。それで『悪魔のメリークリスマス』から『Merry Christmas Mr.Devil』が出てきたのか」悪魔は何となく納得した。

「そーゆーこと。で、不思議なんだけど、『Merry Christmas Mr.Devil』だと、何故かそこまで不吉な感じがしないのよねえ」

「確かに、言われてみればそうだな。なんか、いい話かもしれないって思えるな」

「そうそう。現世の言葉ってホント不思議よねえ」天使はしみじみと言う。

「ちなみに、その『戦場のメリークリスマス』ってのはどんな話なんだい?」悪魔は尋ねる。

「うーん。ごく簡単に言えば、戦時中の捕虜収容所という極限の環境で芽生える、男性間、この話だと捕虜と収容所所長の間の、同性愛の物語かな。まあ簡単に説明できるお話ではないわね」

「ほほう、BLか。お前もしかしてそういう趣味があったのか」

 天使はまたため息をつく。

「あのねえ、どうしてよりによってそんな言葉を知ってるのよ」

「悪いことするのが役目なもんだから、現世のいかがわしい言葉は、嫌でも覚えちまうんだ」

「悲しいものね。ともかく、私は、今は女に化けてるだけで、実際はどっちでもないんだからね。そんなのわかり切ってることでしょう。それに、もしホントにそういう趣味があるとしたら、私は今日男になって来てるはずよ」

「そりゃそうだわ」

 ここで天使は、真剣な目つきになって、悪魔の方を見る。

「あなた、こんな雑談するためだけに私を呼んだんじゃないんでしょ?そろそろ本題に入りましょう」

「おおそうだった。忘れちまうところだった」

「全く・・・」

 悪魔と天使は、少し間を置くように、それぞれ自分のケーキを食べ、それぞれの飲み物を飲んだ。

 悪魔が天使に尋ねる。

「なあ、お前は自分が天使であることをどう思ってる?」

「どうって、ねえ・・・まあ、これが自分の与えられた役割だとしたら、それは全うしなきゃな、とは思うわよ」

「そういう自分の立場に、誇りみたいなのは持ってるのかい?」

「誇りねえ。そんな大それたものが私の中にあるかはわからないけど、今の自分の立ち位置にそれなりには満足してるかな」

「そっかあ。やっぱ天使は羨ましいなあ。人間に幸福を与える仕事なんだもの」

「人間に何かを与えるって意味では、悪魔もそんなに変わらないと思うけどね。幸せを与えるか、不幸を与えるかの違いだけ。それに私は、幸福と不幸の間にも、あんまり差なんてないんじゃないかって考えてる。そりゃあ人間たちにとっては、この二つの差異は重要かもしれないけど、でも私たちはそれのどっちかを、彼らにひょいって渡すだけじゃない」

 悪魔はため息のような息を吐く。

「そういう柔軟な考え方ができるならいいよ。でも、今の俺にはなんかそういうことができねえんだ。確かに悪魔の使命は人間たちを不幸にすることだ。人を傷つけることだ。細けえことは気にしねえで、淡々とそれを続けてりゃいい。実際俺の周りの他の悪魔は、皆そういう考えさ。

 だけど、今の俺はどうもダメだ。自分が傷つけた人間が、どうも可哀想に思えちまうんだ。どうしてこいつが、わざわざこんな悲しい目にあわなきゃなんねえんだろうって。人間が俺のせいで苦しんでる姿見ると、俺も苦しくなってきて、申し訳ねえ気持ちになるんだ。もし自分が天使だったらって、そう思うときすらあるんだ。天使だったら、人間たちの幸せな姿だけ見れて、そしてこんなつらい気持ちになることだって、ないんだろうなと思うんだ。

 なあ、人間ってのは、幸せになるだけじゃ、駄目なのか?天使だけがいて、幸福だけをジャンジャンあげてるだけじゃあ、駄目なのか?」

 天使は、悪魔の話を黙って聞いていた。この悪魔は、駄目なところもあったが、ちゃんと物事を考えられる、いわばマトモな悪魔であった。それが悪魔にとって必要な能力なのかは何とも言えないが、知り合いとして付き合う分にはなかなかの好人物、いや好悪魔なのであった。と言うわけでこの天使は、この悪魔のことを(時に彼の無知さにあきれることはあったが)それなりに気に入っていたのである。このような悩みを抱えるほどとは、流石に知らなかったが。

 天使は紅茶を一口飲む。

「あなたのその苦しみは、すごくよくわかるわ。私も、そういう気持ちになったことがあるから」

 それを聞いた悪魔は、目を見開いて、驚きを表現する。天使はカップを置き、ひとつ深呼吸をする。

「天使ってのも意外と大変なの。あなたも知ってるでしょうけど、人間たちの中にはね、ホントにろくでもないやつがいっぱいいるのよ。でも、そういう人間にも、私たちは、ちゃんと幸せを分け与えないといけない。彼らを幸せにしてやる度に思ったわ、もっと幸せになるべき人間がいるはずだって。そう思うと、とても嫌な気持ちになった。そんな時期もあったわ」

 天使は悪魔の目を見つめ直す。

「けどね、結局、私たちにはもうどうしようもないことなのよ。人間っていうのはね、多少程度の差はあれ、ほとんど同じ数だけの幸福と不幸が与えられるようにプログラミングされているの。誰がそんなの作ったのかは知らないけどね。そして私たち天使と悪魔の存在は、そのプログラムの一部にしかすぎないのよ。そこから逃れることはできない。そういうふうに考えるようになったら、まあある意味諦めたみたいなもんだけど、割と開き直れたわ」

 天使は微笑む。悪魔はうつむく。

「今の俺にゃ、そんな風に考えられる気がしねえよ」

 この悪魔は、相当自分に自信を失っているようだった。

「まあ、考え方は人、あっ、悪魔か、悪魔それぞれだからね」

「おい、変なこと言うなよ。俺は真面目に相談してんだ」

「ごめん、ごめん。あっ、ほら、現世に順応するってのはどうなの?こっちで上手くやってる悪魔も、結構いるみたいじゃない。あなたみたいな人間臭い悪魔なら、いい感じに通用しそうだけど」

「そんな器用に人間たちとやっていけるとは思えねえよ。それに、これまで俺は散々人間たちを傷つけてきたんだ。そんな俺が今さら人間に受け入れてもらおうなんて、虫が良すぎるだろ」

 天使は腕組みする。

「つまり、罪悪感を抱えたまま人間たちとはつきあえないと。考えすぎだと思うけどなあ。ふふ、まあ、あなたらしいけど」天使はまるで天使のように微笑む。

「なんか悪いな。色々アドバイスしてくれたのに」

「別にアドバイスってほどのもんじゃないわよ。ところで、どうしてそういう風に考えるようになっちゃったのかな?何かきっかけがあったんじゃないの?」天使が尋ねる。

 悪魔は言おうか迷ったようだったが、結局話し始める。

「あんまり詳しいことは話せねえんだけどさ。可哀想なじいさんがいたんだよ。見るからにみすぼらしい、俺たちが何にもしなくたって不幸みたいなじいさんだ。でも、俺は課せられた使命に従って、そいつを不幸にしなくちゃいけなかった。その時からだ、俺はこれでいいんだろうかって、思い始めたのは」

「なるほどね。私とは真逆だけど、ある意味では同じような経験をしてるのね」

「そういうことになるな。そういう意味じゃ、天使と悪魔ってのは、似てるのかもな」

 悪魔と天使は互いに微笑み合う。

 この後彼らは、黙々とケーキを食べ、飲み物を飲み干す。何故だか会話は出てこない。賑やかな店の中に、静かな一点が生まれる。

 食事が終わり、少し間を置いてから、天使が、

「そろそろ出る?もういい?」と悪魔に尋ねる。

「ああ、大丈夫だ。今日はありがとな。普段悪魔に囲まれてっから、たまには天使の意見も聞いてみたかったんだ」

「なるほどね。それはとても賢明な判断だと思うわ。自分と全然違う存在の考えを聞くってことは。でもさっきみたいに、意外と似てることもあったりしてね」

 悪魔と天使は席を立つ。店を出るとき、天使は悪魔の肩をポンと叩く。

「こういうことを悪魔に言うのは変かもしれないけど、もっと前向きになりなよ」

「ありがとさん。でも確かに、そりゃだいぶ見当違いだ」悪魔は笑う。

 「二人」はまた街の中に混ざりこんでいく。

 

 生中継2

 

 いやぁー、面白い二人組でしたねー。さて、お次はお次は、いよいよホンモノの美男美女カップルの登場でーす。えっ、今までのは何だったかって?もー、そんな細かいこといいじゃないですかあ。クリスマスだし、楽しければなんだっていいんですよー。あっ、ああ、早く出せって?それは失敬失敬。それでは登場していただきましょう。こんばんはー。

「こんばんはー」

「お、おう・・・」

 あら、腕なんかくんじゃてえ。ラブラブですねぇ。

「おい、やめろって。あっ、いや、そんなんじゃねえ・・・」

「そうなんですよー。愛し合ってますもん」

 いやあおふたり、幸せそうで何よりです。男の子のほうはちょっと照れちゃってるのかな?

「そうっすよ。もう恥ずかしいったら・・・」

「別にいいじゃん。ラブラブなんだしー」

 おふたりを見てると、何だかこっちも照れちゃいますねえ。ちなみに、どちらからいらしたんですか?

「えっ、あっ、そりゃあ、あのお・・・」

「埼玉から来ました」

「あっ、そうそう、埼玉埼玉」

 なるほどお、埼玉県から。

「はい、埼玉なんもないですから」

「お、おい、それは埼玉の奴らに失礼だろ」

 確かに彼女さん、それを言っちゃまずいでしょう。彼氏さん、ナイスフォローです。

「お、おう、どうも」

「ごめんなさーい」

 いやあ、優しい彼氏さんなんですねえ。おふたりは付き合って何か月になるんですか?

「えっ、ええ・・・」

「えっーと、5か月です」

 ほうほう5か月ですか。じゃあまだまたこれからって感じですねえ。

「はあ、そうなのかなあ・・・」

「そうですよねえ」

 おっ、ああ、そろそろですかねえ。いやあ、おふたり、お時間取らせてしまってごめんなさいねー。ご協力、ありがとうございましたあ。

「えっ、ああ、テレビなんて出たの、初めてだったし・・・」

「ありがとうございましたー」

 いやあ、素敵なカップルでしたねえ。彼女さんもですけど、彼氏さんも照れちゃってて、可愛かったですねえ。もうおふたりのこれからの幸せを願うばかり、って感じです。

 それではそれでは、私はこれからもミラクルカップル探して、渋谷の街を練り歩きますよお。まだまだ楽しみにしててくださいねー。

Merry Christmas Mr.Devil 1

悪魔と天使 1

 

 私はここに、悪魔の存在を仮定する。当たり前ではあるが、悪魔と聞いて良い印象を抱く人はいないだろう。彼らは不吉の象徴である。彼らは時に罪もない人に憑りつき、その人を絶望の淵に貶める。

 とはいったが、悪魔もピンキリである。中にはどういうわけか、現世にある日本という国の、伝統的なスポーツである相撲というものに関心を持ち、現世のその国において解説員を務めるまでになった悪魔もいる。とある人間にわけのわからぬノートを与え、それと引き換えにリンゴを貰って、ムシャムシャ食っている・・・ああ、あいつは死神だった。まあ、悪魔も死神も同じようなものである。

 こんな感じで、自分の役割に誇りをもって行動する悪魔もいれば、今言ったようにふとしたきっかけでもって、現世に順応した悪魔もいるわけである。しかし、己の不器用さ故、自らの立場に思い悩み、苦しむ悪魔もいるかもしれない。人間と同じように。

 

 12月24日、午後7時、渋谷のハチ公前に悪魔が現れる。と言っても、何か悪さをするためにやってきたわけではない。彼は人間と同じ様相をしている。ジーンズを履き、ジャンパーを羽織り、頭に黒いフードを被っている。俗にいう「世を忍ぶ仮の姿」というやつだ。

 悪魔は誰かを待っているようだ。彼は待つ以外に特にやることもないようで、スクランブル交差点を歩く無数の人間たちを、何気なく眺めている。ふとこの悪魔は、道行く人々の中に、男女のカップルが普段より異様に多いことに気がつく。一体どういうことなのだろう。悪魔は、現世にとってこの日が特別な日だということを忘れていた。

「お待たせー」

 駅の改札の方から悪魔に向かって、一人の女が歩いてくる。悪魔は人間の女性の服装にはあまり詳しくなかったが、少なくともその女が、今時の女子大生らしい格好をしているということはわかった。そして悪魔と色違いの、白いフードを被っていた。

 その女も人間ではない。驚く人もいるかもしれないが、彼女は天使である。

 

 ご存じの通り、天使と悪魔は正反対の存在である。天使の世界と悪魔の世界は、ハンバーガーのように、現世を間に挟むようにして成り立っている。ただ、この3つの世界のバランスを保つために、天使と悪魔の間にはそれなりの交流がなされている。つまり、現世の幸福や不幸というものに偏りができないように、両者の間である程度の話し合いが持たれているのである。そしてそんな過程の中で、個人的に懇意になる天使と悪魔も少なくなかった。そしてそのような付き合いも、よほど機密情報を流すとか、まずいことをしなければ、特に罰せられはしなかった。しかし勿論、悪魔は天使の世界には行けないし、天使も悪魔の世界に行くことはできない。よって会うとなると、ハチ公前で待ち合わせた彼らのように現世で、ということになった。

 

「たいして待ってねえよ。にしてもなんでよりによって女に化けてくるんだよ」悪魔は言う。天使にも悪魔にも、性別というものはない。だから現世では、男女どちらの姿になっても問題なかった。

「なんでって、今日は特別な日じゃない。この世界にとってだけど」天使は言う。

「知らねえな」

「えーっ、知らないの?あなたってホント世間に疎いのね。今日はクリスマスイブよ。イエス・キリストの生まれる前の日」

「そんなのあったな。それじゃあ、おたくのところも関係あるんじゃねえの」

「まあなくはないけど。別に現世みたいに盛大に祝ったりしないわよ」

「ふーん。そいで、そんな素晴らしい日と、街に男女の組み合わせが多いのには、何か関係があるのかよ?」

「よく知らないけど、なんかいつの間にか男と女がイチャイチャする日になっちゃったみたい。で、それにあやかろうってわけ」

「わけわかんねえな。お前もそんなんに便乗してんじゃねよ」

「私はあなたがクリスマスを知らなかったことに吃驚よ。私が何にも考えてないと思ったら大間違いだわ。あなたが男に化けるって想定して、対して私が女になった方が、周りの人間から見て違和感ないでしょ。こんな日にこんな場所で男二人なんて気持ち悪いじゃない」

「クリスマスぐらい知ってらあ。今日がその日だって忘れてただけだよ」

「だから今日はその前の日だって。クリスマスイブ」

「そんな細かいことどうでもいいだろ。ほら、こんなところで立ち話もアレだしさ、そろそろ行こうぜ」

「そう言えば、今日はどこに行くの?」

「どこ行くって、これから空いてる店探すんだよ」

「ああ、そう・・・」天使はため息をつく。

 この悪魔が人間だったら、まあダメな男だろうと、天使は思う。でもこれまでの付き合いから、天使はこの悪魔が雰囲気よりもいいやつだ、ということを良く知っている。少なくとも悪魔の中では、それなりにまともな部類に入る。もっとずっとたちの悪い悪魔なんて、いくらでもいるのだ。

 

 天使と悪魔は、スクランブル交差点の人混みに紛れていく。その姿は、傍から見ても、ごくありきたりな、イブの夜を(少し揉めながらも)楽しむカップルにしか思えない。そして「二人」はいつの間にか、人間たちの作り出すうねりに巻き込まれ、その中に溶け込んでしまう。

 

生中継 1

 

 はーい、皆さん、こんばんはー。

 私は今、渋谷のですねえ、スクランブル交差点の前にきていまーす。街はもうねえ、クリスマス一色ですよお。お店とか入りますとねえ、どこもきれーに飾り付けられてまして、ロマンチックな夜を、演出してくれてまーす。

 そしてそして、こうやって立って見ているだけで、もういろんなカップルがねえ、街に集まっているってことが、よーくわかります。待ってる間にもですねえ、たくさんの二人組が私の前を、通り過ぎていきましたよお。今年も素敵な美男美女カップルを、じゃんじゃん、見つけていこうと思います。期待しててくださいよお。

 それでは、スタジオに返しまーす。

The Blue 23歳の僕から15歳の僕へ

 あの時15歳だった君は今年で23歳になった。15歳の君は23歳の僕を想像することもしなかっただろう。君はその時感じていた幸せを享受していただろう。

 残念な話をすると、君の人生はその後も順風満帆に続いていくということはなかった。大切なものを失い続け、世の中からは事あるごとに理不尽な目にあわされるだろう。悲しみと苦しみは事あるごとに君のそばに寄り添うだろう。

 だが、これだけは言わせて欲しい。15歳の君が見てきた景色は、いつまでも君の心の中に留まり続ける。間違いなく。

 人は変わり続けることができ、それでいて心の中のある部分は変わらずに在り続ける。

 君の幸福を願う。