The Blue 5
四人は親しくなるにつれて、当然のごとくお互いの家に遊びに行くようになった。特にヨシとジョーがボランティアでいないような時、僕はよく恵ちゃんの家に行った。ケイちゃんの家族は彼と同様に皆寛容であった。食事をごちそうになることもあった。ちなみに家族構成はケイちゃんと、彼の両親、中学生の妹が一人だ。
僕は彼らの優しさ故に、食事の席での話の流れで、つい自分の昔話をしてしまったことがある。その頃にはもうケイちゃんたちにそのことを打ち明けてはいたが、まさかこんな所で過去についてまた話すことになるとは思ってもみなかった。
僕が話している間、彼らは黙って話に耳を傾けていた。ケイちゃんの母と妹は気の毒そうな顔をして、父は真剣そうな顔で腕を組んでいた。ケイちゃんは頬杖をついて時々頷いていた。
話が終わって、最初に言葉を口にしたのは父だった。
「それは大変だったね」
「いえいえ、もうそんなに気にしている事じゃないんで」
僕は苦笑いに近い顔をして、両手を体の前で振った。嘘を言ったつもりはなかった。
「でも、そういう過去を乗り越えられた人はきっと強い人間になれるはずだよ」
はっ、と僕は思った。僕の過去を知った人物が僕に対してこういう風に言うのは初めてのことだった。
「本当に。うちの子は甘やかして育てちゃったから。苦労なんて全然してないんだから」母が微笑んだ。
「ははっ、勘弁してくれよ母さん」
ケイちゃんは両手を頭の後ろに置いてのけぞった。妹もくすくす笑った。
「いや、彼にはいつも優しくしてもらってて。そして、その源がやっぱりこの場所なんだとわかりました」僕は思ったことをそのまま言った。
「いやあ、いいこと言ってくれるじゃないか、君」
ケイちゃんの父は笑っていた。
食事のあと、僕はケイちゃんと彼の部屋に行った。部屋はきれいに整理されていた。彼は僕をベッドに座らせ、彼自身は机の前の椅子に腰かけた。
「にしても、ショウちゃんは絶対立派な人間になれるよな」彼は感心したように腕を組んだ。
「そんなのまだわかんないだろ。それに俺別にケイちゃんみたいに皆に優しいわけじゃないし」
「そうか?ショウちゃんよく俺たちに勉強教えてくれるじゃん」
「でも俺、ケイちゃんに教えた覚えあんましないな」
「あれ?そうだっけ?」ケイちゃんはしばらくとぼけた顔をしている。
「言われてみたらそうかもな」
僕たちは笑った。
「でも、ジョーとかヨシとか、あと他のクラスのやつにも教えてたりするじゃん」
「まあ、それはそうだけど」
「そういうことも十分優しさって言えるけど」
「そんなもんかなあ」
確かに誰かに勉強を教えたりすることはよくあった。でもそれは、意図的に人に優しくしようと思ってしたことではないつもりだった。
帰るのに相応しい時間になったので、僕は改めて食事の礼を彼らに伝えてから、家を出た。全国各地で梅雨入り宣言がなされていた時期だったが、空の雲の量はそこまで多くもなかった。見上げると、まばらな星が見えた。
ケイちゃんの家族と触れ合った後の帰り道で、いつも僕は温かい気持ちになる。そして、誰かの幸せを素直に受け入れている自分がいる。今の僕は、彼らほどには誰かに優しさを上手に伝えることができない。でも、今から少しずつでもそういうことができるようになれればいい。
誰かが僕にそう言っているような気がした。